「薬」を考える

 新潟大学の免疫学の権威安保徹教授の本を数冊読んだが、彼は、現在の医療はほとんどが対症医療だという。発熱、痛み、下痢などの不愉快な症状は「悪」と考え、発熱があれば解熱剤、痛みがあれば鎮痛剤、下痢があれば下痢止めというふうに処方する。しかし、彼によれば、このような不愉快な症状は、免疫力が働いて病気が治癒に向かうときに発生する症状であり、これを薬で抑えると治るものも治らないという。例えば、発熱の場合、体温が高ければ高いほど免疫力が上がるので、体は、病気に打ち勝つために熱を発し体温を上げるているのだという。これには驚いた。私は、今まで、発熱、痛み、下痢などの症状は「悪」と考え、すぐに薬の投与を考えた。発熱が「悪」でないとすると、過去にA型肝炎に罹ったときのことを思い出す。
 1993年、単身赴任で東京で生活していたときのことである。風邪の症状があり38.5℃程度の熱が出たので、風邪薬を飲んだが、37.5℃までは下がるも、それ以下には下がらなかった。そして5時間後には再び38.5℃に上昇した。そこでまた風邪薬を飲んで熱を下げたが、5時間後には、また38.5℃の熱になった。これを数回繰り返すもよくならないので、内科医院へ行ったところ、”肝炎です!、即入院してください!”と。そこで、東京日立病院へ入院した。
 検査の結果、A型肝炎だという。医師は、熱が高くて苦しいだろうけれども解熱剤で熱を下げない方がよいというので、解熱剤なしで2日ばかり我慢した。そのうち、医師が、我慢ばかりしているのはよくなので少し熱を下げましょうといって弱い解熱剤を処方してくれた。1ヶ月程度入院したが、初めの2日ばかり点滴し、あとは、毎日採血するだけで、何もしてくれなかった。採血してGOT、GPT、γーGTPなどのトレンドを見て治癒に向かっているかどうか確認するだけだったようだ。このような治療に対して、当時、私は、A型肝炎は、特殊な病気のため治療法がなく、熱を下げないで放置し自然治癒に任せるしかないのだなと思っていた。しかし、安保徹教授の本を読んだあとでは、発熱に対して解熱剤で熱を下げないことが正しいことがわかった。そして、何のことはない、医者が病気を治すのでなく、私の体が体温を上げて免疫力を高めA型肝炎ウイルスと戦ったのである。安保教授が言うとおり「病気は自分で治す」だったのだ。
 次に、風邪に対する対処を振り返ってみる。
 風邪をひくと発熱したり、鼻水が出たり、胸が苦しくなったりし、非常に不愉快である。特に会社勤めをしているときは、この苦痛を我慢するのは大変だった。これに対して市販の風邪薬を飲むと、熱は下がり、鼻水は止まり、症状が軽くなり、ある程度仕事ができるようになった。また、風邪をひいて熱が出たとき、できるだけ早く薬を飲み、布団を被って寝れば、ぐっしょり汗をかき、熱が下がり速やかに治癒に向かっていた。ところが、60歳を過ぎてからは、薬を飲んで寝ても汗をかかなくなり、なかなか治らなくなっていた。
 ところで、2006年の秋、少し変わった体験をした。
 2004年2月から、月の内半分は、松江へ行き、母の面倒をみているが、掛かり付けの医者から、老人は風邪をひくと肺炎になるので、十分注意するように言われていた。ところが、2006年9月に日立で風邪をひき、治る前に松江へ行くことになり、母に風邪をうつすのではないかと心配になった。そこで、市販薬に頼るのではなく、医者に治してもらうことにした。日立の内科医へ行ったところ、抗生物質と解熱剤の入った薬をくれた。これが実によく効いて2日で治った。これで一安心、しかし、松江へ行って2日ばかり経ったところで、また、風邪をひいた。これはいけないと夕方に内科医へいったところ、もう少し強い抗生物質(医者の言)と解熱剤の入った風邪薬をくれた。夜寝るのが遅いようなら、夕食後に飲んだ後、寝る前に更に飲めという。そのようにしたら、翌朝は完全に治っていた。これには驚いた。さすが医者だと思った。
 ところが、その後の10月半ば、また風邪をひいた。医者からもらった薬が残っていたので、それを飲んだが今度はあまり効かなかった。結局、市販薬を使った。その後、11月、12月と月1回のペースで風邪をひいた。このようなことは過去になく、通常は、年に1、2回である。
 1月になったらまた風邪をひいた。しかし、このときは、安保徹教授の本を読んでいたので、薬は飲まないことにした。
 体温を上げたがよいというので、晩酌を止めなかった。そして、風呂に入って身体を温め、生姜湯を飲んで布団を被って寝た。そしたら、夜中にぐしょりと汗をかき、翌朝は、かなりよくなっていた。2日目も同様にしたところ、3日目の朝には、ほゞ治っていた。この後、1年3ヶ月は、風邪をひかなかった。
 風邪を繰り返したのは、抗生物質を使ったため、身体に抵抗力がつかなかったためと考えられる。また、風邪を完全に治すためには、解熱剤で熱を下げてはならないと思った。若いときは、体力があるので、対症療法で症状を和らげて仕事ができるようにするのはよいけれども、歳をとって体力がなくなってからは、対症療法を行なうのはよくないことがわかった。
 上のようなことを体験したり、安保徹教授の本に刺激されて母の薬を全廃したりしたが、一体、「薬」とは何だろうかと考え込んでしまった。
 細菌に作用するサルファ剤やペニシリンなどの抗生物質、予防のためのワクチンなどは、有用な薬だと考えられる。しかし、薬で人間の体の機能をコントロールして病気を治したり、予防したりすることはできないのではないかと考えるようになった。
 発熱を解熱剤で下げる、痛みを鎮痛剤でとる、下痢を下痢止めで止めるというのは、薬で体の機能をコントロールすることである。しかし、これは単に症状を抑えるだけで治療ではない。
 コレステロール低下剤でコレステロールを下げるのも薬で体の機能をコントロールすることである。これについては、別のページで論じたが、コレステロール低下剤はいらないと結論した。
 降圧剤で血圧を下げることも薬で体の機能をコントロールすることである。これは、現在、盛んに行なわれているが、間違っていると考える。浜六郎氏は、「高血圧は薬で下げるな!」という本を著わしているが、薬で体の機能をコントロールしてはならないということにほかならない。
 そもそも人間の体は、非常に複雑なシステムである。各々の機能は、独立に存在するのではなく、お互いに複雑に絡み合っている。一つ機能をいじれば、あちこちの機能に影響を与える。人間の身体をほゞ完全に模擬するスーパーコンピュータでもあれば、一つの機能をいじったとき、他にどのような影響を与えるかシュミレートできるが、そのようなスーパーコンピュータは存在しない。シュミレートできない今の段階では、薬で体の機能をコントロールするようなことは、やってはならないと思う。やっても、最少限にすべきだ。
 安保徹教授は、薬は、頓服的に使用するのはよいが、継続して使用してはならないといっている。そして、薬を連続投与する対症療法では、慢性の難病は永久に治らないという。これはとりもなおさず、薬で体をコントロールして病気を治すことはできないということである。
 ではどうするか、安保徹教授は、慢性の難病は、薬を中止せよという。そして、自律神経免疫療法などを行なうことを奨めている。新谷弘美氏は、病気にならないよう生き方を変えろと言っている。
 私は、今後、体の機能をコントロールする薬は、よほどのことがない限り使用しないことにした。
 
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