北欧ツアー雑感

「北欧」と聞くと、私はどう説明してよいかわからないある特殊な情念を感じていました。
 私は、世界史が好きだったので、私の頭の中に形作られている世界の国々の歴史・文化などの知識は、高校時代の世界史から得た知識が根幹をなしていま す。世界史によく出てくるフランス、イギリス、ドイツ、ロシアなどとは異なり、北欧は、8世紀から10世紀にかけてのノルマン人の海賊的な植民活動程 度しか世界史には出てきません。1066年、ノルマン・コンクェストといわれるノルマン人によるイギリス征服がありますが、これはフランス化したノル マン人の活動であり、北欧のイメージとは合いません。北欧の情報は、結局は、テレビ、雑誌、観光案内など非常に断片的なものでした。それらの情報では、 深緑の森林、蒼く澄んだ湖などの写真を提示し、北欧は森と湖の国であると紹介されていたので、それがそのまま頭に中に強く綴り込まれていました。
 ノルマン系の北欧人は、肌白く金髪蒼目で背が高い。これに対して、フィンランドは、ハンガリー、エストニアと同様に東洋系の民族で言語・風俗が異なり、東洋系なるが故に日本人に近いところがあるのではないかなどと想像していました。また、しばらく前までは、北欧は、福祉の行き届いた国ということでもてはやされ、日本もそれに見習うべきだとマスコミなどでよく取り上げられていました。しかし、私は、高福祉社会を維持するために、所得の70%前後も国に持って行かれるという状況は、本当に人間にとって幸福なのだろうかといつも疑問に思っていました。こういう高福祉高負担社会の街の雰囲気はどんなものだろうかなどなど興味は尽きませんでした。
 以上のように感じていたため、是非一度行ってみたいと思っていました。北欧は、寒いところなので、観光に適した期間が短いためかツアー費は意外に高く、特に8月の観光シーズンは、高い設定になっているようでした。高額な地域へのツアーは、退職後より会社勤めをしているときの方がよいと考え北欧ツアーを実行することにしました。

 成田を10時55分に発ちその日の15時過ぎにヘルシンキに着きました(所要時間約10時間半)。飛行機が着陸するとき、フィンランドの森林が見えてきましたが、脳裏に深く染み付いていた深緑の森林ではなく、どちらかというと黄色に近い緑でした。緑の濃い奥行きの深い落ち着いた雰囲気ではなく、明るく開放的な雰囲気であり、想像していた光景より大きく異なっていたので、しばし戸惑いました。北欧は、緯度が高いため日射が弱いので、肥料不足となり深緑にはならないのではなかろうかと勝手に想像しつつ、深緑の森林は、観光写真に誤魔化されていただけだったのかと納得したような気分になりました。
この森の色に対する感覚は、スエーデン、ノルウエー、デンマークでも同じでした。帰国後、成田から帰るとき、左右に見える森や林の緑の方がはるかに深い緑であることを知らされました。湖の色もまた同様に写真に誤魔化されていたようです。ごく普通の湖の色だと感じました。
 北欧の町並みは、非常にきれいだと聞いていましたが、想像していたほどではありませんでした。ノルウエーのフィヨルド沿岸に建つペンキ塗りの民家は、アメリカに近いのではないかと感じました。アメリカ人は、アングロサクソン系が多いので、イングランドの影響が強いと想像しますが、アメリカの住宅は、イングランドの影響よりむしろ北欧の影響の方が強いのではないかと感じました。イングランドの町並みというと、私は過去3回訪れたロンドン西方のBath市まわりの町並みを思い出しますが、この地方の住宅は、ほゞ100%石造りでペンキなどは一切使っていません。今回の北欧ツアーにより、イングランドの町並みはヨーロッパでも特異な存在ではないかと思うようになりました。 フィンランド人は、東洋系なので、多少東洋人の顔に近い人もいるのではないかと思っていましたが、そうではありませんでした。彼ら自身は、「白人」
といっているそうですが、北欧4ヶ国中で一番色が白いのではないかと感じました。最初にフィンランドを訪れたためかもしれませんが。
 街の通りの名前などは、必ずフィンランド語とスエーデン語が併記されていましたが、フィンランド語は、母音が多いと感じました。例えば、HELSINKI(ヘルシンキ)を見ただけでも母音が多く最後は母音で終わっています。ここのところだけは、日本語に近いと言えます。
 日本では、一時期北欧は、フリーセックスの国といわれたことがありますが、これは女性が強く独立心が旺盛だということから来た誤解であるとガイドさんは説明してくれました。その証拠として、下の写真の像のところに案内してくれました。この像は、コペンハーゲンのチャーチル公園の入口にあるゲフィオンの噴水の像です。よく見てください。強い女性であることを如実に表していると思いませんか。

女神ゲフィオン
  その昔、スウェーデンの王が女神ゲフィオンに、一昼夜で耕せるだけの土地を与えると約束した。
  女神ゲフィオンは自分の4人の息子を雄牛に変え、土地を掘り、土を海に投げたという。その投げ込まれた土でできた島、それが今のシェラン島であるという。
昭文社 「北欧」から

 日本では、どんなに不便な山奥に行っても民家があります。日本は人が多く土地が狭いからこのようなところにも住まなければならなかったのは日本だけの特徴であろうと思っていましたが、ノルウエーのフィヨルド沿岸に点在する民家をみるとよくもこんな不便なところに住んでいるものだと驚かざるを得ませんでした。この光景を見て、所詮、人間は人種が違っても皆同じだなあと納得した次第です。
 北欧4ヶ国をまわって貴重な体験をしいろいろなことを感じましたが、見聞前の何とも説明のできない情念は消滅し、ごく普通の国々であると感じるようになりました。”百聞は一見にしかず”古人はよく言ったものと改めて感じ入った次第です。