6.プライマリーバランスの黒字化は最大の愚策(R01/06/15)

 財務省は、プライマリーバランス(PB)の黒字化をあげ、安倍政権は、それを受けて2025年PB黒字化を目標にしている。ただし、2025年は不可能と言われている。当たり前である。PBの黒字化とは、政府の財源は、租税のみで賄うことである。これが財政健全化だという。
 PBの黒字化が、財政健全化だと? これが全くわからない。「財政健全化は、PB黒字化である」と思い込んでいるだけである。「PB黒字化教」という新興宗教の教義である。
 よく考えれば誰でも、これは間違いであるとわかるはずだ。現在、財政は、租税と国債で賄っているが、PB黒字化するには、国債発行をやめ、大幅な歳出削減や増税が必要である。これを実施したら国民生活はガタガタになる。これは、子供でもわかる話だ。こんなわかり切ったことが、大学の経済学者、政治家、財界人、マスコミは分からないだろうか。不思議でならない。反対しているのは、ごく少数の政治家、チャンネル桜、京都大学の藤井聡教授、三橋貴明氏、中野剛志氏、産経新聞の田村秀男氏など非常に少数である。
 ところで、中野剛志氏のMMT解説動画を見て、MMTの税金の考え方は、「税金は、財源確保の手段ではなく、経済を調整する手段である。」と聞き非常に驚いたが納得した。
 以下に中野氏の説明を記す。

通貨について

  1. 政府は、通貨(円、ドル、ポンドなど)を定める。
  2. 政府は、国民に租税を課し、法定した通貨を「納税手段」とする。
  3. 通貨は、「納税義務の解消手段」という価値をもつ。
  4. こうして、納税義務の解消手段としての価値をもった通貨が、取引手段や貯蓄手段としても使われて流通する。
税金は何のためにあるか

租税は、財源確保の手段ではなく、経済を調整する手段

税を軽くすると、通貨の(納税)需要が低まるので、国民はカネよりもモノを欲しがる(物価が上がる(インフレ)圧力)
無税国家にできないのは、ハイパーインフレを引き起こすから。

税を重くすると、通貨の(納税)需要が高まるので、国民はモノよりもカネを欲しがる(物価が下がる(デフレ)圧力)
増税は、デフレを引き起こす。

その他

高所得者により重い所得税を課すと、所得格差を是正できる。
温室効果ガス排出に税を課すと、温室効果ガスを抑制できる。
消費に税を課すと、消費を抑制できる!

 以上で税金は、財源確保の手段ではなく、経済を調整する手段であることがわかったと思う。
 税金は、財源確保の手段でないならば、税金だけでは、財源が不足した場合、どうすればよいか。簡単である。政府は、「通貨発行権」をもっているので、不足分だけの通貨を発行すればよい。プライマリーバランスの黒字化は全く必要ないのである。
 昭和50年(1975年)三木内閣のとき、初めて2兆円の赤字国債を発行した。その時の大平正芳蔵相は、「万死に値する、一生かけて償う」と言って恥じたそうだ。しかし、国債は、年々増え今は、GDPの200%を超えている。
 考えてみると国民があまり裕福でないとき家電ブームなどで高度成長すると十分な税収があったので、赤字国債の発行は必要なかった。しかし、徐々に国民が豊かになりいろいろなところに金が必要になると、税金だけでは、財源を賄いきれなくなる。これは、ごくごく当たり前のことではないだろうか。
 不足分は、国債ではなく、新規発行通貨で賄うべきである。国債で賄うと借金が!借金が!と騒ぎだす。現在のシステムでは、日銀の国債直接引き受けに該当する。これは、政府が日銀に借金することになるが、日銀は、政府の子会社であるから、利払いは不要である。新規発行通貨は、どんどん増えて行くが、何も問題は発生しない。現在、国債残高がGDPの240%になっているが、何ごとも起こっていないことと同じである。
 財務省は、プライマリーバランスの黒字化を言っているが、狂気である。これを実行したら国民の生活がガタガタになることは、少し考えればすぐにわかることである。財務省は、バカとしか言いようがない。なぜ、財務省はこれほどまでに拘るのだろうか。それは、国債残高が増えるとデフォルトすると考えているからである。MMTは、自国通貨を発行できる政府は、デフォルトしないと言っている。私は、20年以上前から「通貨発行権」のある政府は、デフォルトしないと言ってきた。
 6/11に中野剛志氏の著書「奇跡の経済教室」を読んだ。「第9章 日本の財政再建シナリオ(P177)」の最初の節は「プライマリーバランスを黒字化して破綻する」であるが、冒頭に、財務省の財政制度等審議会は、平成29年度予算編成等に関する建議の中で、「財政健全化には一刻の猶予も許されない。政府は2020年度のPB黒字化目標にコミットしており、この目標は引き続き遵守されなければならいない。」と言っていると。財政健全化とは、PB黒字化と考えているようだ。バカかと言いたい。審議会委員には、大学教授や民間会社のいろいろなお偉方が入っている。委員全員が、PBの黒字化が必要と考えているのだろうか。MMTが入ってきたが、彼らは考え方を変えるだろうか。何としても変えてほしい。
 主流派経済学者達も、国債残高が増えるとデフォルトするので、「PBの黒字化」が必要と考えているようだ。伊藤元重教授は、財政破綻をオオカミにたとえ「オオカミが来る、オオカミが来る」と言って騒いでいる。彼は、4.で紹介したように「信用創造」を知らない。民間の貯蓄が減り国債を買えなくなると騒いでいる。一体彼の頭の中は、どうなっているのだろうか。理解に苦しむ。
 中野氏の著書の同じ節の中でIMFによりプライマリーバランス黒字化を突き付けられたアルゼンチンとギリシャの結果が載っていた。
 アルゼンチンは、歳出削減に励み、マイナス成長しながらなんとか頑張ってPBを黒字にしが、財政破綻した。
 ギリシャは、増税と歳出削減に励み、PBを黒字にしたが、その代償としてGDPの1/4が吹っ飛び、失業率は26%超(若年層の失業率は60%)になってしまった。そして、2015年、事実上の財政破綻に陥った。
 この2国の状況を知ると、この世の中は、バカばりばかりと言いたくなる。PB黒字化すると、こうなることは、ちょっと考えればわかることである。IMFもバカばかりいる。
 これは、主流派経済学が、完全に間違っているからである。
 財政健全化は、「PBの黒字化」ではない。「国民がゆたかで幸福に暮らす」財政である。適正インフレを超えないよう制御された財政支出の拡大が必要である。
 そのためには、「PB黒字化教」の撲滅が必要であるが、非常に難しい。