「債務残高/GDP比」の改善はGDPを増やすこと

GDPを増やすには、積極財政出動だ

「プライマリーバランスの黒字化」では、財政健全化はできない

1.「債務残高/GDP比」が大きいのは、何が原因か

 財務省は、財政健全化と称して「プライマリーバランスの黒字化」(以下、「PB黒字化」)を挙げ、財政制度審議会でも盛んに「PB黒字化」を取り上げている。内閣も「PB黒字化」を閣議決定している。そして、やっていることは、緊縮財政と消費税増税という最悪の施策である。
 財務省は、「債務残高が1100兆円もある。国民一人当たり800万円の借金だ。」と言っていたが、橋洋一氏等から、バランスシートの右側の「負債の部」しか見ていない。左側の「資産の部」を見れば、何も問題ないと言われるので、論点を変えたようだ。日本は、債務残高のGDP比率が、220%に達し他国に比べて非常に大きいから、これを改善するために「PB黒字化」が必要と言っているようだ。
 財務省のホームページにあった債務残高のGDP比率の図(最終年は、2016年で少し古い)を下に示す。この図をみれば、誰でも日本は非常に大きいと思う。


図1

 上の図を見れば、日本は、他国に比べてGDPに対する債務残高は、非常に大きい。
 この原因は、何だろうか。この原因は、島倉原氏の著書「積極財政宣言」(2015/4)で解明されているが、筆者は、技術屋の視点から考察する。
 筆者は、大学の工学部を出た技術屋である。会社では、品質保証部門に所属し、いろいろな事故対策を実施してきた。
 製品に事故が発生したときは、徹底的に原因を究明し、その原因に対して対策するのである。これは、ごくごく当たり前のことである。
 それでは、図1の原因を究明しよう。「債務残高/GDP比」が上昇するのは、1992年頃からである。1991年11月に宮澤内閣、1993年8月に細川内閣が成立している。
 下の図は、中野剛志氏が、YouTube「よくわかるMMT」の中で使った図であるが、出処は島倉原氏である。これによると、GDP、財政支出の1970年から2016年に渡る推移がよくわかる。


図2

 この図を見ると、GDPと財政支出は、ほゞ同じカープを示している。このことは、財政支出を増やさないと、GDPは増えない、逆に財政支出を増やせば、GDPは増えることがわかる。財政支出を増やさなくなったのは、1994年頃からであり細川内閣のときである。Wikipediaの記載によると「赤字国債を発行しないことが細川政権の公約の柱の一つだった」とある。細川内閣以降の内閣もこれに追随している。今の安倍内閣も追随している。赤字国債は、「悪」なので出来るだけ抑えるという考えのようだ。
 ところで、三橋貴明氏は、OECD33ヶ国のGDPの伸びのグラフを紹介している(下図)。


図3

 この図を見て愕然とした。20年間、GDPが成長していないのは、日本だけである。中国は、統計に信用できないところがあるが、貧しい状態から成長したので、伸び率は高くなることはわかる。隣の韓国は、2.4倍、米国は、2.3倍になっている。日本は、1倍、なぜ、成長しなかったのだろうか。
 上記の島倉原氏の著書「積極財政宣言」の中に下の図がある。この図は、「名目公的支出伸び率」と「名目GDP伸び率」の分布図である。結果をプロットしただけのものであるが、相関係数は、0.9543で非常によい相関を示している。この図を見ると、日本のGDPが伸びないのは、一目瞭然である。公的支出を全く伸ばしていないから、GDPが伸びてないのである。


図4

 財務省は、「債務残高/GDP比」は、他国に比して非常に悪く220%(図1)に達しているというが、その原因は、GDPが20年間増えていないからである。GDPが増えないのは、公的支出を伸ばしていなからである。
 アメリカは、図4から公的支出の伸率は約4.5%であり、それに対応するGDP伸び率は、約4.3%である。これを20年間実施すると複利計算になり、(1+0.043)20=2.32となり、図3の2.3に対応する。もし、日本も公的支出伸び率を米国並みに4.5%にしていたならば、GDPは、回帰直線を使うと米国と同一の約2.32倍になるので、220%/2.32=95% となりアメリカ並みの「債務残高/GDP比」になる。
 こう書くと、公的支出を伸ばすためには、国債発行を増やさなければならないので、「債務残高/GDP比」は、そんなに下がらないと反論する人が出てきそうである。が、そんなことはない。大量の国債を発行すれば、景気が良くなりデフレから脱却する。景気がよくなれば、税収が増える。税収が増えれば、国債の発行は、少なくてすむ。
 公的支出を5%前後伸ばしGDPを伸ばしている国は、「債務残高/GDP比」は、100%前後である。日本も公的支出を他国なみに増やしていれば、上で試算したように、当然、「債務残高/GDP比」も他国並みになっていた。
 今から追いつくためには、公的支出伸び率は、5%程度では不足で、10%程度必要ではなかろうか。

2.「債務残高/GDP比」大の原因

 「債務残高/GDP比」が、他国に比べて悪いのは、上で説明したようにGDPが伸びないためである。GDPが伸びない原因は、公的支出を伸ばさないからでる。
 よって、対策は、明確で、公的支出を伸ばす ことである。
 ところが、財務省や政府は、まともに原因の究明をしないで、「債務残高/GDP比」を小さくするには、分子を小さくすればよいと単純に考え、「PB黒字化」を挙げ、緊縮財政を継続し、その上に消費税増税まで行っている。「PB黒字化」は、原因を考えない単なる思い込み対策でる。仮に、国民を不幸にしながらも「PB黒字化」を達成したとしても、GDPは、一定どころか下がるので「債務残高/GDP比」は、改善されない。「PB黒字化」は、真の対策の真逆である。この真逆を実行すると、とんでもないことになる。「PB黒字化」については、ブログの 6. で「プライマリーバランスの黒字化は最大の愚策」として書いたが、これを推進すれば、日本は、貧乏になり後進国になってしまう。「PB黒字化」は、絶対にやってはいけない施策である。
 上にも書いたが、筆者は、技術屋である。事故、トラブルに対しては、徹底的に原因を究明し対策するのが当たり前である。ところが、文系の多くの人は、この対応ができないようだ。財務省、政治家、マスコミの中心人物は、東大など一流大学の文系出が多いが、原因に対する対策という思考ができないようだ。
 高橋洋一氏は、『「文系バカ」が日本をダメにする』とか、「日経新聞と財務省はアホだらけ」という著書を出しているが、本当にそうだと思う。
 この問題は、政治の問題であるから、本来ならば、野党が是正活動をすべきであるが、日本の野党は、国民を豊にするという考えはなく、内閣打倒しか頭にない。内閣のスキャンダルを探し出して騒いでいるだけである。実に嘆かわしい。
 また、マスコミがダメである。政治が間違えてもマスコミがしっかりしていれば、間違いを指摘し是正できるはずであるが、日本では、それが全くできないのである。「PB黒字化」に反対する新聞は、ひとつもない。産経新聞は、一番まともだと思って購読しているけれども、田村秀男記者だけは反対しているが、その他の記者は「PB黒字化」推進である。どうかしている。
 「PB黒字化」に反対している人は、非常に少ない。少し紹介すると、三橋貴明氏、中野剛志氏、島倉 原氏、京都大学の藤井聡教授など、政治家では、自民党議員で「日本の未来を考える勉強会」会長の安藤裕議員とその会員議員など、マスコミでは、チャンネル桜くらいである。
 三橋貴明氏の「プライマリーバランス目標の破棄を!」を読んでみよう。ノーベル経済学賞を受賞したクリストファー・シムズ教授は、2017年の段階で、「将来不安により支出が萎縮している日本で必要なのは継続的な財政拡大とインフレ実現への政治的コミットだ」と指摘している。
 日本の経済学者の中で、財政拡大を言う人は、主流派でない京都大学の藤井聡教授などほんのわずかで、東大、一橋大などの主流派経済学者では、ひとりもいない。なぜ、だろうか。財務省に逆らわないようにしていれば、よいと思っている学者もいるようだが、ほとんどの主流派経済学者は、債務残高が増えると、財政破綻すると思っているからだ。このままでは、日本は、どんどん劣化して行くだけだ。
 コロナ対策で政府が大量の赤字国債を発行し財政が悪化するので、コロナ増税をしなければならないと言い出すバカがいる。本当にどうしようもないバカがいる。

3.「債務残高/GDP比」の改善

 「債務残高/GDP比」の改善には、財政拡大である。増税を行うとGDPが伸びないので、増税は絶対に行ってはならない。
 財務省が言う「PB黒字化」は、大間違いである。
 「PB黒字化」は、真の対策の真逆の施策である。これを推進すれば、日本は、劣化して行き滅びる。滅びるとは、シナの属国になり文化も言語もなくなることである。

 課題は、「PB黒字化」を如何にして撤回させるかである。

 ところで、日本には、財政不健全という問題はない。2015年12月の高橋洋一氏の下記論文を読めば、明解である。

 「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした〜それどころか…

(注) タイトルを変更しました。
  「債務残高/GDP比」大の原因と対策 ⇒ 「債務残高/GDP比」の改善はGDPを増やすこと
(2020/6/19)

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