15.こんな人が経済学会の重鎮か! (R02/07/23)
6月26日の産経新聞の1面左上に「コロナ 知は語る」という欄に立正大学長吉川洋氏の「収束見据え 負担の議論必要」という記事が載っていた。
吉川洋氏は、東大教授から立正大学へ移った人であるが、財政制度等審議会会長になりプライマリーバランス黒字を推進した人だ。東大名誉教授でもあり、紫綬褒章を受章している。
題目に疑念を抱きながら、記事を読んで愕然とした。こんな人が日本の経済学会の重鎮か!と。問題点を以下に記す。
記者の「――政策経費をどれだけ税収などで賄えているかを示す一般会計の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の赤字は、令和2年度に66兆円に達する」に対し、
「日本は既に財政赤字が大変な問題になっている、債務残高はGDPの2倍、世界で一番悪い状態だ。政府は一里塚として(7年度に国と地方のPBを黒字化する)財政再建目標を掲げるが、コロナで達成時期は遠のいた。ほとんどのエコノミストも最後まで大丈夫だという人はいない。公的支出には(財源の)「負担』が必要になる。その議論をどうやっていくのかが問題だ」と答えている。
「日本は既に財政赤字が大変な問題になっている、債務残高はGDPの2倍、世界で一番悪い状態だ。」と言うが、GDPの2倍になった原因は、プログNo.14 に記したように、20年以上緊縮財政し財政支出を増やさなかったためGDPが増えなかったからである。でも、200%を問題にすることはない。政府の借金は、国債+国庫短期証券で1100兆円であるが、このうち500兆円は、日銀が所有している。日銀は、政府の子会社であるから、政府は、日銀に500兆円を返済する必要はない、よって、政府の借金は、1100-500=600兆円 である。GDPで割ると 600/550=109% となり他国並みであり何も問題ない。財務省と財政制度等審議会が借金でないものを入れて問題視し騒いでいるだけである。
また、PB黒字化を言っているが、何故にPB黒字化しないといけないか筆者には全く理解できない。産経新聞の田村秀男記者も全く同じことを言っている。PB黒字化は、小泉内閣のとき竹中平蔵氏が持ち込んだようである。PB黒字化とは、政府の通常経費は、税収で賄えということであるが、なぜ、税収のみでまかなわなければならないかわからない。どうやら、国債発行は、借金である。借金は罪悪である。よって、借金しないで税収のみで賄えということのようだ。この考えは、大間違いだ。政府には、貨幣発行権があるので、税収が不足すれば、新規通貨を発行すればよいのである。
「公的支出には(財源の)「負担』が必要になる。その議論をどうやっていくのかが問題だ」と言っているが、吉川氏の頭の中は、公的支出は、国債発行であり借金であるから増税で返金するしかないという単純な思考である。上記の66兆円を増税で賄うしかないが、その議論がないと言って嘆いている。そして、
「1円でも誰かに給付したら、誰かが負担しなければならない。天から降ってくる1円はない。日本の財政はツケ放題でこうなっている。余裕がある人がたくさん負担するしかないのだか、金持ちがやればいい、大企業がやればいいというのでは衆愚政治だ。消費税は評判が悪いが、経済的能力がある人に傾斜を付けるという意味ではよくできた税だ。一番消費する金持ちが一番支払うのだから」と言って、そして増税を
「きちんと説明するのが政治の責任だ。税の議論は世の中で常にプーイングを浴びる。」とある。
吉川洋氏は、こんな単純な頭の持ち主かと驚いた。第一次、第二次補正予算で膨らんだ赤字は、増税で返すべきだと。それをきちんと説明するのが政治の責任だと。しかし、これを実行したらコロナ禍から脱却できても、再び奈落の底に落とされることになる。これがわからないのだろうか。バカ!と言いたい。
公的支出の財源は、簡単だ。ブログ13.「通貨発行権のある政府」は、借金する必要はない で述べたが、日銀の国債保有は、借金ではないので、日銀が66兆円分の国債を買い取ればよい。これだけだ、何の議論もいらない。
ところで、産経新聞の6月28日の5面に「対コロナ 財政出動どこまで」というタイトルに次の説明が付いていた。「新型コロナウイルス感染拡大に伴い、政府は令和2年度第2次予算など次々と財政政策を打ち出しているが、難しいのは財源をどうするか。現時点では「非常時なのだから、必要なお金は発行すればいい」というムードが強いが、逆にインフレや財政破綻を招く危険も指摘される。果たして財政出動は、どこまで可能なのか。」
これに対して3人の識者がコメントしていた。
紙面右側に法政大学教授小黒一正氏(京大理学部卒、一橋大大学院経済学研究科博士課程修了。博士)が「少し落ち着いてきた今、国債発行でまかなった財源をどう償還していくか議論すべきだ。」と吉川洋氏と同じことを言っていた。
紙面中央は、大和総研チーフエコノミスト熊谷亮丸氏(東大大学院修士課程修了、米ハーバート大学経営大学院上級マネジメントプログラム終了)である。初めの方で「財政赤字の臨界点がどこにあるかは"神学論争"の一種であり、世界第3の経済大国が国民生活を危険にさらすことは絶対に避けるべきだ。」と書き、以降いろいろ書いてあるが、よくわからない。最後に「拙速な財政再建ではなく、無尽蔵にお金をつぎ込むでもなく、新型コロナを"賢い支出"で抑え、しかるべきタイミングで財政を立て直すべきだ。」と書いているが具体的でないので役の立たないコメントである。
紙面左側は、コロンビア大学教授伊藤隆敏氏(一橋大学経済学部卒、米ハーバーと大博士)である。最後に「今はコロナ危機対応が優先されても、感染が収束し、国内総生産(GDP)がはっきりと回復軌道に乗ってくると見込まれる来年夏頃には、本格的な財政再建の議論を行うべきだろう。次の危機がくるまでに、どう財政赤字を減らしておくかの道筋を、つけておかなければならない。」
最初の小黒一正氏は、吉川洋氏と同じことを言っている。熊谷亮丸氏と伊藤隆敏氏は、共に財政再建を言っているが、具体的説明がなく何の役にも立たないコメントである。設問の「財政出動は、どこまで可能なのか。」には、全く答えていない。熊谷亮丸氏は、"神学論争"の一種だと言って逃げている。
以上、4名の経済学者の見解を紹介したが、主流派経済学者は、こんな程度かとガッカリした。日本は、20年以上GDPは増えず、給料は、減少して行き、どんどん後進国化しているが、経済学者がこの程度では、止む終えないと諦めざる終えないのか?
財政赤字、財政赤字と言っているが、貨幣発行の本質を考えたことがあるだろうか。プログNo.13で「通貨発行権のある政府」は、借金する必要はない で書いたが、経済界は、単純な金本位制の思考に留まっている。金本位制のときは、金塊がなくなると国債を発行して市場から借金することになるが、現在は、金本位制ではないので、金塊がなくても、政府には、通貨発行権があるので、国債など発行しないで、通貨を発行することができる。すると、財政赤字など考える必要はなくなる。
今後日本が良くなるためには、なんとしても金本位制の思考から脱却しもらわなければならない。